2025.09.03

【開催報告】 長野県諏訪地域で、気候変動と地場産業のこれからを考える勉強会を開催しました

持続社会連携推進機構アース・シェルパと自然エネルギー信州ネットは、8月22日、長野県諏訪市の駅前交流テラス「すわっチャオ」にて、「猛暑の今こそ、事業者×専門家×住民で考えたい『気候変動×地域産業勉強会 in 諏訪』」を開催しました。会には約25名が参加し、活発な意見交換が行われました。本稿では、当日の議論を整理するとともに、地域産業および政策的な観点から見える含意を提示します。

1. 気候変動による地域と産業への影響

長野県環境保全研究所の浜田崇氏から気候変動の現状や諏訪地域の気温変化、そして現在調査を進めている県内発酵産業へのアンケートやヒアリング調査の経過などについて発表いただきました。地域での気温上昇が観測できること、特に諏訪地域の最低気温の変化について、100年あたり約9°Cの上昇が起こっていることにについて触れられ、これは単純に平均温度上昇を見るだけでなく、その性質も把握することの必要性がわかります。

さらに、同研究所が実施した酒蔵・みそ蔵事業者へのアンケート調査からは、以下のような具体的な影響が浮き彫りになっています。

  • 日本酒:高温障害による酒米の性質変化(溶解性が低い等)、発酵管理の難化、酒粕の増加
  • みそ:過発酵による色味変化、品質安定化のための冷房設備投資ニーズの増大、労働環境への負担増
  • 共通の課題:冷房や原料調達コストの上昇やそもそも原料確保が困難に。

調査では、原料・製造工程・労働環境・製品といった項目ごとにそれぞれ影響についてヒアリング等を行っており、今後も調査を進めていく段階ということです。

浜田氏は、「発酵産業の気候影響は十分に可視化されていない。地域ごとの違いを踏まえた調査・政策対応が不可欠」との指摘がありました。

写真:長野県環境保全研究所 浜田崇氏

2. 事業者からの声:現場が抱える課題

諏訪地域のみその作り手として、株式会社竹屋の藤森伝太氏、有限会社喜多屋醸造店の長峰愛氏、日本酒の作り手として酒ぬのや本金酒造株式会社の宮坂ちとせ氏にご登壇いただき、直面する不安や課題、取り組みなどについて発表いただきました。

藤森氏は、全国各地にみそがあることが大事であり、それがないと日本の文化がどんどん衰えていくことになる、と危機感を示しました。同時に、各地域で守っていくことの重要性を指摘しました。

株式会社竹屋 藤森伝太氏

宮坂氏は、米の値上がりや高温障害による影響などについて触れ、また養鶏場と連携し進めている、酒粕を活用した資源循環の取り組みについて紹介し、こうした地域で循環する取り組みを少しずつ増やしていけたら、と話しました。

酒ぬのや本金酒造株式会社 宮坂ちとせ氏

長峰氏は、高温が続くと味噌が焼けてしまう(色が変わってしまう)ことを挙げ、それを防ぐには保管のための冷房設備が追加で必要となるが、環境への負荷を考えると躊躇いがあること、環境負荷を抑えながら冷房設備を導入できないか、と今後に向け必要なことについて話しました。

有限会社喜多屋醸造店 長峰愛氏

3. ディスカッションで浮かび上がった論点

後半のグループディスカッションでは、気候変動に対抗しつつ地域産業を持続させるために必要な要素が幅広く議論されました。主な論点は以下の通りです。

  • 情報・教育:最も広く指摘された課題で、気候変動が産業に与える影響に関する一般的認知度が低く、継続的な情報発信が不可欠と一致。
  • 設備投資支援:再生可能エネルギー導入や省エネ冷房設備に対する支援策の検討が急務
  • 労働環境:高温下での作業負担軽減のため、労働時間・作業環境に関する制度的整備が必要
  • 研究開発:高温環境でも発酵品質を維持できる原料・品種開発への投資
  • 地域資源の活用:山間部の涼しい気候を利用した避暑シェルターや共同保管施設の可能性

4. 政策的含意と今後の方向性

今回の議論は、現在中間見直しが進められている「長野県ゼロカーボン戦略」とも接点を持ちます。特に以下の観点から政策反映の必要性が見えてきました。

  1. 適応策と緩和策の統合的推進:冷房設備導入など適応策は、再生可能エネルギー導入や省エネと同時に推進する必要があること
  2. 中小企業支援枠組み:地場産業は大企業に比べ投資余力が乏しいため、県や国レベルでの補助制度・融資枠の整備が不可欠であること
  3. 文化資産としての産業継続施策:発酵産業は経済的価値のみならず文化的資産でもあり、気候変動適応は文化政策とも接点を持つこと

今回出された意見は主催団体で取りまとめ、現在中間見直しを進めている「長野県ゼロカーボン戦略」(※)へ活かせる点がないかを検討し、担当者への報告やディスカッションを予定しています。

また、今後も同様のテーマで勉強会やワークショップの開催を検討しています。本記事をご覧になった方でご関心のある県内外の日本酒・みそ等の事業者の方がいらっしゃいましたら、お問い合わせフォームよりご連絡くださいませ。

参加者の皆さま

以上

※:『長野県ゼロカーボン戦略の中間見直しへの御意見等を募集します』(2025年6月23日)https://www.pref.nagano.lg.jp/zerocarbon/happyou/250623press.html

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