2月19日、持続社会連携推進機構アース・シェルパは、ジャパン・クライメート・アライアンス*と共に、東京都千代田区の「0 Club」*イベントスペースにて、『気候変動に立ち向かう日本酒を知ろう・飲もう!』を開催しました。酒蔵・生産者・研究者・メディア関係者など約60名が参加し、登壇者からは、気候変動が日本酒造りに与える影響や、各地で進む地域・社会・環境に対しポジティブな取り組みについて共有されました。
▼目次
- 気候変動は酒造りにおいても看過できない重要な課題に
- 講演:気候変動の現状と日本酒造りへの影響
- 酒蔵・生産者より:現場の課題と取り組み事例
- 岡山・株式会社辻本店 七代目蔵元 辻総一郎氏
- 石川・株式会社吉田酒造店 七代目蔵元 吉田泰之氏
- 福島・有限会社仁井田本家 十八代蔵元兼杜氏 仁井田穏彦氏
- 神奈川・合同会社小田原かなごてファーム 代表 小山田大和氏
- 兵庫・株式会社神戸新聞社 経営企画局専任部長・編集委員 辻本一好氏(地エネの酒「環プロジェクト」)
- パネルディスカッション:次の100年も日本酒造りを地域で続けていくために
- 制度・政策面への提言
- 日本酒ファンへのメッセージ
- 終わりに
- 参考情報
気候変動は酒造りにおいても看過できない重要な課題に
開催にあたり、後援団体・宮坂醸造株式会社*代表取締役社長で長野県酒造組合*会長の宮坂直孝氏からメッセージが寄せられました。「気候変動は、原料米の品質や収量の変化、栽培環境の不安定化など、酒造りにおいても看過できない重要な課題となっている。日本酒はその土地の水・米・人の営みによって育まれてきた地域文化そのものであり、自然環境の変化はその基盤に直接関わる重大な問題だ。安定した原料の確保や担い手の問題は、一業界だけでなく、地域全体で共有し取り組むべきテーマだ」と述べました。
講演:気候変動の現状と日本酒造りへの影響

新潟大学自然科学系地球・生物科学系列 教授 本田明治氏
本田氏は気象学の観点から現状を解説しました。2023〜2025年の3年連続で夏の記録的高温が続き、「異常」が「新たな正常」になりつつあること、今後は猛暑と豪雨が当たり前になることを説明。また、日本周辺の海水温が150年間で2度上昇しており、これは世界で最も速い上昇速度であることも指摘しました。本田氏は、「日本は元々水回りが良く豊かである一方、災害が多い。これは表裏一体であり、これまでは地域力で保ってきた。ところが、地球温暖化を背景に風水害などが激甚化しており、その上、地域の人口減少が著しく、地域を維持すること自体が難しくなってきている。災害や環境変化に強い地域社会をどう次世代に引き継いでいくかが重要であり、これは私たちの世代の責務だ」と述べました。
参考動画:https://youtu.be/fK_UxSztBCs?si=92ChyGCk6Tkt–16
酒蔵・生産者より:現場の課題と取り組み事例
気候変動による酒米への影響として、収量の減少・高温障害による登熟不良・胴割れなどが挙げられ、「割れやすく溶けにくい米」が増え、日本酒造りが難しくなっている現状が共有されました。こうした状況を受けながらも、各登壇者はそれぞれの地域で独自の挑戦を続けています。
岡山・株式会社辻本店 七代目蔵元 辻総一郎氏

生産量の約95%を岡山県産が占めるという酒米「雄町」は、山田錦・五百万石など現在の酒米の約70%のルーツとなる貴重な品種です。雄町は「原生種」であることをひとつの価値としているために、簡単に品種改良できないことから、気候変動の影響に対してどのように対策をとっていくのかは、大きな課題のひとつです。辻氏によれば、「令和6年産は史上最悪の品質で、通常は7割がお酒・3割が酒粕のところ、6割が酒粕・4割がお酒という状況も発生した」とのことでした。
辻本店は、「雄町の未来は御前酒が醸す」をテーマに岡山県真庭市で雄町米のみを使用した酒造りを実践。2022年に全量雄町化を達成*し、さらに日本最古・600年前の醸造方法「菩提酛造り」*を40年前に復活させ、2025年は100%菩提酛での酒造りとなる見込みです。全量雄町米の酒造りを実践する中で、等外米についても責任を持って有効活用することで、持続可能な農業の支援につながる酒造りを進めています。
石川・株式会社吉田酒造店 七代目蔵元 吉田泰之氏

吉田酒造店は、創業以来の「手取川」に加え、泰之氏の代から「吉田蔵u」ブランドを展開。「食、人、自然に寄り添うナチュラルで優しいお酒」をコンセプトに、原料米は蔵の周囲のものに限定し、白山の雪解け水を使用しています。製造に使う電力は再生可能エネルギーに全面切り替えし、雪国に適した垂直型ソーラーシェアリングを導入して年間10万kWhを発電*。2023年にユネスコ世界ジオパークに認定された「白山手取川ジオパーク」とも連携*し、売上の一部を白山市に寄付しており、また気候変動の啓発活動を行っています。吉田氏は、「気候変動の問題は自分たちだけで対策するのでは限界がある。周りに広め、伝える活動をしていくことが大切だ」と述べました。
福島・有限会社仁井田本家 十八代蔵元兼杜氏 仁井田穏彦氏

「日本の田んぼを守る酒蔵」をミッションに掲げる仁井田本家は、自社7ヘクタールで米作りから酒造りまで一貫して実施。1965年から自然栽培を開始し、2010年に全量オーガニック化を達成しました*。2011年の原発事故を機に電力を太陽光発電由来に切り替え、2021年からはパタゴニアと協業して世界初のリジェネラティブ・オーガニック(RO)認証を水田と日本酒で取得*。所有する50ヘクタールの山林の保全や杉材による木桶製作も含めた循環型農業を実践しています。「創業から300年酒造りをしてきた。元気な田んぼからお米を、豊かな山からお水をいただければ、これからまた300年、酒造りを続けていけるのではないか」と述べました。
神奈川・合同会社小田原かなごてファーム 代表 小山田大和氏

耕作放棄地を「お昼寝していた土地」と捉えて再生し、農業と再生可能エネルギーの生産に取り組んでいます。現在8基のソーラーシェアリングを運営(神奈川県最多)。ソーラーパネルの下で農薬・肥料を使わない自然栽培を行い、収穫したお米と発電した電気の両方を井上酒造(神奈川県足柄上郡)に届けることで、自然エネルギー100%の日本酒「推譲」を実現しています*。「ソーラーパネルによる適切な遮光が、米の育ちや品質の向上にもつながる可能性がある」と、農業と発電のシェアリングが持つさらなる可能性についても言及しました。
兵庫・株式会社神戸新聞社 経営企画局専任部長・編集委員 辻本一好氏(地エネの酒「環プロジェクト」)

7農家・7蔵をつなぎ、酪農からのバイオガス発酵で生まれる「消化液」を有機肥料として活用する資源循環農業「環(めぐる)プロジェクト」を推進しています*。兵庫県加西市の豊倉町営農組合では、消化液の活用とコウノトリを育む農法の組み合わせにより、稲作に使用するエネルギーをほぼ半減することに成功*。昨年は「Salmon-Safe(サーモンセーフ)」認証を日本で初めて取得*し、環境省「気候変動アクション大賞」*も受賞しました。「農業は温暖化の影響を受けながら、一方で世界的には農業自体が温暖化の大きな要因ともなっている。化石燃料由来の肥料や農薬を減らした資源循環型農業を進めていきたい」と述べました。
※当日ご登壇予定だった市田 真紀 氏は、ご体調不良のためご欠席となりました。市田氏の資料に基づき当機構代表小池より一部代読をいたしました。
パネルディスカッション:次の100年も日本酒造りを地域で続けていくために
特に共通する点として話題にあがったのは、これからの「新しい価値」の在り方でした。美味しさだけでなく、作られる背景にあるもの・環境や社会に良い取り組みがきちんと評価され、選ばれること。作り手にとっても取り組むメリットを感じられる制度設計が必要であり、消費者側も、その視点を持って選ぶことが重要になってきます。
吉田氏は「美味しくてもたくさんエネルギーを使う酒蔵で良いのだろうか。地球とのバランスを考えて、制約の中でできる最高のお酒を出すことが今後必要になってくる。」と述べました。

上:吉田酒造店スライド資料より、垂直型ソーラーシェアリングの様子
制度・政策面への提言
辻氏は「若手の間では、精米歩合(玄米を削ったあと、残ったお米の割合)によって日本酒の価値が決められる今の制度が果たして良いのか、という議論もある。これからの日本酒の新しい価値を、お客様と一緒に共有できるものを考えていきたい。」と述べました。
仁井田氏は、「有機JASやRO認証の取得には、労力・コストもかかる。それでも環境を再生する力があると考え、取り組んでいる。例えば認証のある日本酒だと海外での引き合いが強くなるなど、環境だけではないメリットがあることで、次に取り組む人が続いていくのではないか。国は『みどりの食料システム』において、“2050年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%に拡大”を目指している*。こうした目標とも連動できるのでは。」と述べました。

上:会場の様子
▼ 登壇者からあがった、今後必要な制度・政策的な論点
- 日本酒の評価基準の見直し:精米歩合に依拠した現行の品質・価値基準の見直し。環境負荷や持続可能性への配慮を評価に組み込む仕組みづくり
- 環境負荷軽減の取り組み導入の際の、手続きの簡略化・マニュアル化:ソーラーシェアリングを含め、自社での再生可能エネルギーの活用や導入の際の手続きをわかりやすく、取り組みをしやすい環境整備
- インセンティブ強化:RO認証など、先進的な取り組みに対して、海外展開支援や補助金等の具体的なメリットを付与し、後に続く人が増えやすい仕組みをつくる
- バイオマス資源(消化液等)活用の制度整備:農業副産物としての消化液の有効活用を促進するため、廃棄・焼却に傾きがちな現状を改め、資源循環を後押しする制度的枠組みの整備
- 食料・エネルギー自給率向上を見据えた地域農業政策の強化:地域の農業インフラを次世代に継承するため、担い手の育成・確保や、地域循環型のエネルギー・食料システムを支援する政策
日本酒ファンへのメッセージ

小山田氏は、「『推譲』は、二宮尊徳(金次郎)の言葉。利益が出たならば、将来の自分の為や広く社会の為にこれを還元すべきである、という考えが込められている。私はこれをまず日本の国酒である日本酒から始めた。この考え方が、これからの社会に必要だと思う。」と述べました。
また辻本氏は、「日本酒は、元々エコな文化・DNAを持っている。農業は地域で資源循環を担っている産業だが、昨今はほとんど化学肥料や輸入に頼っている。もっと地域資源を使うことで、自分たちの環境も良くなり地域経済も回っていくことを考えて、日本酒を楽しんでもらえたらと思う。」と述べました。
▼ 登壇者からあがった、消費者と共にできるとこと
- 「選ぶ」行動で蔵を支える:環境・地域への取り組みを行う蔵元の商品を意識的に選ぶことが、持続可能な酒造りへの直接的な支援につながる
- 日本酒を楽しむことを「田んぼを守る行動」として捉え直す:日本酒は、ほぼ国産米100%。一升瓶1本を作るのに約2畳分の田んぼが必要(精米歩合65%の場合)。日本酒を飲むことが農地の維持・食料自給率の向上に寄与するという視点を持つ
- 背景を知り、周囲に伝える:蔵元の取り組みや気候変動との関係を学び、SNSや口コミを通じて発信することが社会的な意識変容を促す
- イベント・農業体験への参加:田んぼの保全活動や酒蔵見学・収穫体験など、生産現場と消費者をつなぐ機会に積極的に関わる
おわりに
農業は地域のインフラであり、酒蔵はそれを支える重要な存在として地域文化を継承しています。気候変動による深刻な影響を受けながらも、各地で革新的な取り組みが展開されています。当機構では、引き続き生産者・酒蔵の皆さんと連携しながら、政策への橋渡しなどの活動を進めていきます。
ご登壇の皆様、ご参加いただいた皆様、ならびにご協力いただいた皆様、誠にありがとうございました。

上:ご登壇の皆様
参考情報:
当日イベントにてご提供した日本酒をご紹介します。
※当日は複数のラインナップの中から「櫻政宗」/櫻正宗(株)をご提供しました。
